2019-03-10から1日間の記事一覧

制作するグランマ・モーゼス

痩せた 顔 細い 手 年取った おばあさんの 厳しさのある 真剣な 顔 横顔 筆を持った 右手 左手は 板を斜めに 支えて 新聞紙の 敷かれた テーブル 絵の具の入った 丸い缶 缶の口に わたしてある 刷毛のような 筆 もう一つの 缶には 筆がさしてある 机の下の …

朝早く、まだ

朝早く、まだ薄暗い部屋で、僕は目を覚ましている。机も窓ガラスも出しっぱなしの扇風機も静かに自分の位置をまもっている。もぞもぞと動く僕だけが部屋で唯一落ち着きのないもの。静寂を破るもの。(2011.03.05)

羅列

疲れ。首の痛み。体の重さ。だるい。怒り。軽蔑。憎しみ。忘れる。ヨット。光。オレンジ。くそっ、こんなことしてなんになる。焦り。失望。歪み。俺は分からない。苛立ち。憂鬱。夢うつつ。とらわれ。感情。掃き溜め。神経。痙攣。(2011.02.28)

永らく忘れていた道を僕は歩いた。僕が歩いたのはいつも夜だった。外に出るとそこはいつも夜だったから。遠くに白く光る街灯が見え、僕はそれを目標に暗い道を歩いた。何度も角を曲がった。やがて街灯のことは忘れられた。 その夜、僕は何度も吐いた。嘔吐の…

散歩

ある日、近所の土手を散歩していると、急に左手に変なむずむずを感じて、見ると、親指がもそっと付け根から落ちていった。地面に転がった親指を危うく踏みつけそうになるのを避け、腰を曲げて落ちた親指を右手で拾おうとしたところ、今度は腰からごっそり離…

秋の速度で

塔の内部には秋がたちこめている。反射光。ガソリンスタンド。有給休暇。瞬きする速度で聴こえる。緊縮財政。時間に遅れることが蜂蜜のように打つ。ずっと昔の涙を踏みつけて灰色の青に揺れる香りを列車の轟音が運び去る。砂浜に波が打ち寄せる。石垣の上に…

抜粋

「考えるとか思うとかは、現在の一点から動いて、高い丘へ広い野へ低い谷へと一歩一歩歩きだして行く心なのだ。」 「風のひどい日で、往来が広くなったように見えていた。」 「毎日のくらしに織込まれて見聞きする草木のことで、ただちっとばかり気持がうる…

別の世界

夜、目が覚めると明かりを消した部屋にぼんやりと光があった。見ると、光は寝ている僕の足元のほうにあった。そして、そこには黄土色の階段があった。 階段は小窓の付いた壁面に沿って上にのびていた。僕は目をこすり、少し頭をはっきりさせた後で、その幻覚…

午前三時

幸田文の本の中に「頭のなかの足を動か」すというのがあって、いいイメージだと思う。(2010.10.25)

豊原清明さん

豊原清明氏の言葉の断片を読んで、僕は彼の言葉は僕が書きたかったことを書いてるなぁと感じる。書きたかったけど僕には書けなかった言葉や、僕には聞くことができなかった声。書かれてしまったなぁと感じながら、それでも自分も書けると思う。自分の言葉で…

時計の音

聞き慣れた時計の秒針の音。もうずっと、盤を見たことがない。でも、夜のこんな静かな時間には、いつもその音が聞こえてくる。考えてみれば、もう七年間使っているこの部屋で一番親しいのは毎晩のこの音かもしれない。(2010.10.17)

善意の会

昨日の新聞に「善意の会」というNPOの出版した生き方かなんかの本の広告が出ていた。そんなユーモア小説にからかいの対象として出てきそうな団体名を真面目につけるような人の気が知れない。(2010.10.11)

『織と文』志村ふくみ

好き嫌いを別にして志村ふくみの文章は力強い。時には迫力を感じる。と同時に、彼女はとてつもないイカサマ師だとも思う。(2010.10.10)

分析

分析というのは、一種の衰弱だ。(2010.09.18)

ある夜の散歩

月の明るい夜に街を散歩していると、男が話しかけてきた。 君、こんな夜には僕や君が置き忘れてきたものたちがそこここに、宝石のように輝いて見えるぜ。 言われてみると、たしかに電信柱の陰や、ゴミ捨て場や、ビルとビルの隙間、空き地の草むらの中や、に…

民族

民族(というものがあるとして)やある特定地域における人の集団にそれぞれ特徴的な思想や性格があるなら、それはそもそもそれらの人々に固有のものして備わっているものではなく、つまり日本人、中国人、フランス人、トルコ人といったものに初めから人間と…

尾形乾山の曲線

昨日の夕刊に尾形乾山の晩年の乱箱の写真が載っていたけれど、その箱の内装に描かれた絵はとても僕の心を打った。波と鳥の絵なのだが、その波の曲線がとても素晴らしくて、あの曲線を70代だか80代だかで描けるというのが僕には新鮮な驚きだった。という…

礒江毅展

奈良県立美術館へ礒江毅展を見に行った。面白い作品もいくつかあったけれど図録を買うまでではなかった。80年代後半あたり(90年前後)と2000年以降の作品に特に惹かれた。 90年前後の作品には青春の面影を感じた。未熟さゆえに生み出せる作品があ…

そうして苦し紛れに叫んでみたのだけれど、もはや声が失われていることに僕は気づく。(2011.10.19)

生活

待てよ。生きていかなきゃならない。ありのままの姿で。こんなにも混沌としたままで。きっと戻るべき過去なんてないし、思い出す過去は本当じゃない。(2011.10.16)

気持

いくら頑張っても願っても、あの頃の気持は戻らない。それで、今の気持もまた未来の僕には取り戻すことができない。(2011.10.11)

かまきり

今や、僕にとっての文学は、父にとっての司法書士のようなものだ。僕は父に向かって言う。司法書士は諦めてなにか他のことをすれば? 誰かに対して言ったことはみな自分に跳ね返ってくる。というか、本当は自分に言っているのかもしれない。 散歩の途中、道…

思い

小学三年の時に作った鉛筆立ては今も残っているけど、その頃の自分が考えていたことはもう残っていない。(2011.10.05)

変化

なにがあったという訳じゃないけど、気持は変わっていく。変わらないものなんてない。たとえ心から変わりたくないと願っていても。(2011.10.04)

タオル

新しいタオルはほんとに真っ白い。でも僕はそんな目が痛くなるような白さより、使い古したタオルの柔らかい白さが好きだったりする。(2011.09.28)

熊本県のとあるSAで

熊本県のとあるSAで僕らは夜を明かすことになった。座席は窮屈で僕はついによく眠れなかった。 深夜、車を出てぼんやりと駐車場の灯りを見つめていると、時々、灯りの近くで流れ星のような光ーー線を引く光――があらわれた。どうやら蛾のようだった。蛾の羽…

捨てた日記のこと

また捨てた日記のことを考えている。なんとなく思い出せたり、推測できたりすることはある。中学生の頃のノートには、善や悪といった言葉や、孤独や精神といった単語が使われていただろうとか。でも、今では思い出せなくなったことのほうこそ、僕は知りたい…

『ピエロよ永遠に』

『ピエロよ永遠に』(岡部文明)は読んでいて僕を懐かしくさせる本だった。中学生の頃抱いていた、ここより他にもっと素敵な世界がある、そこに自分も行きたい、という思いを、思い出させてくれる本だった。だから、その頃読むことができればもっと良かった…

気持のいい夜

気持のいい夜だ。涼しい風が吹いている。十時前、皿洗いもして、今日の仕事はもう終わった。こんな時間、短いものでもいいから一つでも作品を書くことができたら素敵だろうと思う。書くことのできない僕は、代わりに他人の書いた本を読む。 ポール・ボウルズ…

『100マイル・チャレンジ』

今週は『100マイル・チャレンジ』というカナダのドキュメンタリーを毎晩見ていた。自分の住む地域から100マイル以内の食材だけで生活するという企画にチャレンジした数組の家族の姿を追った番組。その中に二人の料理上手がいて、彼らを見ていて、僕は…