ある夜の散歩

 月の明るい夜に街を散歩していると、男が話しかけてきた。

 君、こんな夜には僕や君が置き忘れてきたものたちがそこここに、宝石のように輝いて見えるぜ。

 言われてみると、たしかに電信柱の陰や、ゴミ捨て場や、ビルとビルの隙間、空き地の草むらの中や、に光を放つものがあった。

 けれど、そいつに触れちゃいけないよ。触れたら最後、二度と正気には戻れない。そいつは神秘なんだ。人間が知っちゃいけないんだ。いや、そいつを知ることが許されているのは幼子だけだ。幼子はみな持っているものなんだ。だが、いつの間にか忘れられ捨てられてしまう。それが、こんな月の明るい夜にはああやって光を放つ。おっと、余計な話だったかな。では、さようなら。

 月の光はいよいよ明るくなった。と、その光を浴びてバタバタと道行く人たちが倒れ始めた。僕はそのうちの一人に駆け寄って触れてみると、彼はすでに息絶えていた。こんな美しい光には人は耐えられないのだ。僕は自分も頭がくらくらしてきた。(2011.10.31)