熊本県のとあるSAで

 熊本県のとあるSAで僕らは夜を明かすことになった。座席は窮屈で僕はついによく眠れなかった。

 深夜、車を出てぼんやりと駐車場の灯りを見つめていると、時々、灯りの近くで流れ星のような光ーー線を引く光――があらわれた。どうやら蛾のようだった。蛾の羽の鱗粉に光が反射するのだろう。僕は優しい気持に満たされていった。そして、そんな時いつもそうであるように、この気持がずっと続いてくれるならと思わずにいられなかった。

 SAは沈黙していた。やがて小雨が降りだしてきた。僕はすっかり冷えきってしまったので売店に入ろうと歩き出した。ゴミ箱から出されたゴミ袋を嗅いでいた黒猫が僕の姿を認めてゆっくりと奥の茂みの闇の中へと消えていった。(2011)