2019-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅 (奈良県立美術館)

ヨルク・シュマイサーの作品は、彼の心象の詰まった宝物入れのようだ。貝――彼はこの題材が好きだったようだ。彼は海辺で拾い集めた貝殻を「海岸のかけら」と呼んでいる――や蕾や遺物や様々な土地の建物や自然、記憶、時間、文字、文学的想像などが作品の画面…

くそったれ

神様とか、いないよな。神の計画ってなんだよ。くだらねえ。前世だ、カルマだ、ってそんなものもしょうもねえ。何のためにそんなもんがあんだよ。原罪ってもんがあるなら、それは人の罪じゃなくて神の罪だろ。人間がロクでもないんじゃなくて、てめえがロク…

『ヴァレンタインズ』オラフ・オラフソン

一月から十二月までをタイトルにした十二の短編からなる恋愛小説集。恋愛小説といっても、ここに描かれているカップルたちは幸せなカップルではない。ここにあるのはすべて痛みを伴った愛の物語である。物語は静かな緊張を湛えながら破局へと進んでいく。人…

五月十七日

――何のために生きんだろとか考えへん? ――考えない。そんなこと考えてもしょうがないじゃん。 ――だよな。だから恋とか愛とかあるのかもしんねーな。余計なこと考えなくていいように。 ――そうなのかな。ね、楽しけりゃいーじゃん。

二度目の京都旅行②

今回の旅行ではたくさんの仏像を見ることになった。美しい仏像もあれば、迫力のある仏像や朗らかな仏像もあり、また大して興味をひかれない仏像もあった。が、どの仏像に対しても言えることは、それらに心を動かされるということはなかったことだった。単な…

二度目の京都旅行①

歩くほどに心も肉体も軽くなっていった。ぽっかりと空いた心の空間に温かい何かが満ちていく。それはよく晴れた五月の陽気のせいばかりではなかっただろう。僕は哲学の道を歩きながら今度の旅行で初めて満ち足りた気分になった。それは京都旅行の二日目のこ…

少し疲れているだけさ

岸本タカシは逃げていた。甲高い靴音がもう一時間以上も彼を追いかけていた。彼は逃げきれないだろうと感じて、弱気になっていた。なぜなら、いくら振り返っても足音の主はおらず、逃げようにもどうすればいいのか分からなかったから。いや、疲れのせいだ、…