二度目の京都旅行①

    歩くほどに心も肉体も軽くなっていった。ぽっかりと空いた心の空間に温かい何かが満ちていく。それはよく晴れた五月の陽気のせいばかりではなかっただろう。僕は哲学の道を歩きながら今度の旅行で初めて満ち足りた気分になった。それは京都旅行の二日目のことだった。

    僕はゴールデンウィークの後半で二泊三日の京都旅行をすることにしていた。一日目は前日の仕事の疲れが取れず、出発も予定していた時間よりも遅くなった。夕方に京都に着くと夕食の買い物だけして宿に向かった。宿に着くとすぐに大浴場で風呂に入った。普段シャワーだけで済ませるので、ゆっくりと湯に浸かった。風呂から上がり夕食を食べてからはしばらく読書をしたりテレビを見たりしてのんびりと過ごし、12時前に明かりを消した。

    二日目の朝九時過ぎに銀閣寺を訪ねた。二日目はそこから哲学の道を歩いて南禅寺まで行くことにしていた。最初に訪ねた銀閣寺に少しがっかりした。整備された庭園を歩きながら、よくできた鉄道模型を見ているような気になった。綺麗に拵えられているのには違いなかったが、何か物足りなかった。次に訪れた法然院は手入れが行き届いておらず、空気が荒んでいるような印象を受けた。僕は今日の行程は失敗かもしれないと思った。自分はもっと別のものを見て回ったほうがよかったのかもしれない。だが、僕は歩き続けた。哲学の道に入るとようやく気持が和んできた。小川は涼しげで、小道の脇は木々や草の緑が陽光をちらちらと反射し、風は暖かく穏やかだった。大豊神社、若王子神社と行くにつれ、だんだん僕の気持は軽くなり、足取りも軽やかになった。僕は心が何か温かいものに満たされていくのを感じた。

    永観堂禅林寺は二日目の旅の山場だった。この広大な仏教寺院は最後まで僕を楽しませた。境内は手入れが行き届いており、どこを歩いても気持ちがよかった。秋の紅葉で有名な寺だが、今は青紅葉が美しく、青い楓の葉が爽やかな五月の風に揺られ陽の光を零していた。暑い日だったのでひんやりとしたお堂の中を歩くのも気持がよかった。

    永観堂を出ると南禅寺へ行ったが、南禅寺では金地院に感心した。その後、電車で京阪三条に出て、湯葉の中に麺も具もくるまれたユニークで味も美味しいカレーうどんを食べ、そこから京都駅近くの宿まで歩いて戻った。この日は二万歩以上歩いていた。風呂に浸かりながら、体を休めるつもりの旅行でもあったのにこれでは普段以上に体を使ってしまったと思ったが、気持は満足していた。

    三日目には東寺を訪ねた。ここもまた広々とした寺院である。金堂や五重塔や宝物館などの共通チケットを買い、全部見て回ると二時間ほど経っていた。宝物館の千手観音像や金堂の薬師如来には迫力を感じた。ただ、金堂内を見物中、途中から仏教音楽のようなものが鳴りだしたのは興ざめだった。薄暗い堂内の静寂の中で仏と向き合っていたかった。東寺を出ると京都駅まで戻った。そして駅近くで昼食をとり、京都を後にした。