働くことについて(僕の人生ってなんなのだろう?)

もし、生活するのに困らない金があれば、僕は全然働かなかっただろう。あるいは、ベーシックインカムのような制度があれば、僕の人生はもっとずっと気楽なものになっていたんじゃないか。なぜなら、中学生になって周囲との人間関係につまずき、人付き合いがほとんどできなくなってしまった自分にとっては、学校を出た後にどう生活していくかということは切実すぎる問題だったからである。

その頃の僕は周囲の人間たちを心の中で批判し、彼らの価値観(と僕が勝手に思い込んでいたもの)に潰されまいと孤軍奮闘し、いくつかの本を自分の味方にして自分は天才なんだと思い込み、自分も詩人か作家になるんだと夢見ていた。ランボーに憧れ、自分も家出して街を放浪しながら詩を書いて暮らすんだなどと夢想していたが、人間に対する恐怖心のほうが強く出てそんな企みも夢のまま終わってしまった。行きたくなかった高校にも行った。行きたくなかった大学にも行った。それも全て、自分の臆病さからであり、自分一人では社会に出ていくことなど不可能と思えたからだった。他人とうまくコミュニケーションが取れない、会話ができない、しかも自分に自信がないという僕の特徴は、僕という人間に深い劣等感を植え付けた。そして僕は人付き合いの場からどんどん離れていった。実際僕には中学生以降友達と呼べるような人は一人もいない。七年間通った大学にも知り合いは一人もいない。

もし、あの頃ベーシックインカムがあれば、僕は間違いなく高校になど行かなかっただろう。そして最小限の社会との関わり(衣食住に関する)を除いて社会活動などせず、自分個人の世界を深めていけたんじゃなかっただろうか。もし、そうであったなら僕は今よりずっと自分らしいやり方でこの世界に何かを残せたんじゃないだろうか(それがたとえ多くの人には無用なものであったとしても)。しかし現実には、生活の悩みは歳を重ねるごとに増大し、僕からいろんな興味(に費やす時間)を奪い去り、実家に引きこもっていた20代も後半のある段階で僕はそれまでの僕自身を殺し、社会に出ていく(つまり働く)ことになった。

それから数年、僕はまだなんとか働いている。もし、生活するのに困らない金があるなら働かない。