つまらないこと

 社会に順応すればするほど僕は自分自身を失っていく気がする。窓から入り込む風は昔のようには感じられない。そこには何の不思議も驚きもない。五感はどんどん衰えていくようだ。生きやすくなればなるほど、僕はかつての感覚からは遠のいてしまう。自分を取り巻く世界がもっと曖昧で混沌として不安定だった頃から。その頃、僕が感じた生きているという感覚は、今僕が感じている生きているという感覚とは根本的に質の違っているものだ。今僕が感じるその感覚はかつてのそれよりもずっと健康的な物なんだと思う。でも、僕はそこに寂しさを感じてしまう。今よりずっと生きていくこと自体が苦痛だったあの頃に戻りたいとは思わないけれど、今のままでいいのかという思いが時々頭をよぎる。