三月九日

 暗くなり始めた夕暮。人ごみの中、僕は歩いていた。前には父が歩いている。しばらく歩いていくと、皆水路に入っていく。僕と父もそこに入ると、水の流れる滑り台みたいに水路に流されていった。水は、始めのうちしゃがむと頭が出るくらいだったが、徐々に深くなった。水路のところどころにコンクリートに囲われたところがあり、その中にたまった水は流れている水よりも色が濃く、コントラストになっている。僕と父の前を女子高生数人が喋りながら流れていった。

 水路を出ると、頭までびしょびしょになっていた。僕は大学にいた。父はもういない。僕は濡れた頭をセットしようとトイレを探した。H君が僕に声をかけたが、僕はそれと気づかず返事をしそびれた。少しして僕はさっきの声がH君だったと気がついたのだった。トイレが見つからない。僕は人目を避けて歩いた。とある校舎に入り、階段を上った。僕はこれから授業があるのだと思う。行く気はなかった。僕は途中の階に入り、誰もいない廊下に置かれたベンチに腰かけた。すると、H君がやってきた。

「授業出えへんの」H君は言った。

「うん」

H君はまだ何か言いたそうにしていたが、去っていった。僕はベンチに腰かけたままじっとしていた。(2013.03.09)