三月二十三日

 今日はカメラ片手に散歩してきました。

 近頃は散歩もあまり楽しめず、今日もまた最初は興が乗らなかったのですが、歩いているうちにだんだん楽しくなりました。そんな気持に呼応するように天気もどんどん良くなりました。

 写真を撮りながら歩く楽しみは、やはり普段なら気づかなかったり、気に留めなかったりする景色や物に思いがけず面白みを発見したりすることです。田舎町といえども歩くたびに何かしら発見があるものです。

 細い川に渡された三本の石柱の橋。小道からその橋を渡ると山道です。山道を少し先に進むと行く人を非日常に誘い込むかのような樹木のアーチ。語りかけてくる風景にカメラを向ける僕。風景と語り合うかのようにシャッターを押す。「もっと奥へ」「この先には何があると思う?」「ねえ、僕たちのほうも見てよ」「おい、さっさと終わらせてくれよ」・・・。あちこちから囁きかけてくる声たち。

 今はもう使われていない鉄道用の橋の土台の壁には過ごしてきた時間の記憶がこびりついていました。

 知らない道を行く喜び、不安、好奇心。見知らぬ人々、暮らし。異なる世界へと入ってゆくような細い道の果てに知っている景色を見出した時の安堵。とはいえ、迷ってしまった時にこそ僕らは本当に世界に出会えるのでしょう。 

 多少オーバーワーク気味だったカメラ君は途中でバテて眠ってしまいました。その後はメガネをはずし裸眼で歩くことにしました。カメラ片手の緊張感も捨てがたいですが、何も考えずぼんやり歩くのもまたよいもの。春の日差しの温もりを肌に感じながら、感覚する機械として歩きました。

(2013.03.23)