心の空っぽな人はさいわいである

僕は散歩していた。歩いている僕の右側に川が流れていた。山並みが前方に横たわり、そこから空が広がる。水の流れも、樹木も、空も僕が生まれる以前からあり、僕がなくなったのちにもあるだろう。それどころか自然は人間が生まれる前からあり、人間が去ってからもあるだろう。地球が生まれたのが大体今から約45億年前らしい。今のヒトが生まれたのは約20万年前。人間はこの地球の上を我が物顔で生き散らかしているが、ほんの新参者だ。そして、草や木が、微生物や虫が、動物たちがそうであるように、人間もまた自然の営みの一部に過ぎない。あらゆる命は自然から生まれ、自然の中に没する。僕という一人の人間の命は、自然と比べるとき、ひどくちっぽけだ。けれど、そもそもこの命は自然の営みの一部なのであり、自然そのものである。僕というちっぽけな意識の塊は、自然と切り離されたものではなく、そのまま大きな自然の一部であった。