ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅 (奈良県立美術館)

 ヨルク・シュマイサーの作品は、彼の心象の詰まった宝物入れのようだ。貝――彼はこの題材が好きだったようだ。彼は海辺で拾い集めた貝殻を「海岸のかけら」と呼んでいる――や蕾や遺物や様々な土地の建物や自然、記憶、時間、文字、文学的想像などが作品の画面には散らばっている。

 彼はモノを写実的に描くが、作品は必ずしも写実的な作品ではない。たとえば、東大寺を描いた作品では画面の真ん中に真上から見た大仏殿前の広場が描かれ、上に正面から見た大仏殿、下に正面から見た中門が描かれる。そして、それらに重なるように仏像や仏教文様や仏具などが描かれている。それはただ見たままの風景画ではなく、印象や記憶や思考といった個人の体験を通過して構成された風景画である。分かりやすくいえば(いや、分かりやすくないか?)絵画によるマインドマップのような感じだ。また、彼の作品に一連の日記もの――静物や風景とともに彼の日記やメモの文章が描かれる――があるが、そちらは芸術的な絵日記といった趣き。

 彼の作品は彼の体験(そこでの意識の動き)そのものを表現しようと試みたものだろう。そう考えると、一見非現実的に見える画面の構成やイメージの重なりは必然的に選び取られた表現方法だったのだと感じた。