『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』

ーー先輩! 

ーーおー、ケビン。どうした?

ーーこの顔のどこにアメリカンな要素あります?  ジュンっすよ。

ーーお前、こんなとこで何してんの?

ーー先輩こそ、どうしたんですか?

ーーデートの帰りや。

ーーえ、先輩とデートしてくれる子がついに現れたんすか?  おめでとうございます。

ーー俺だってやるときゃやるよ。

ーーところで、先輩、お腹空いてます?

ーー空いてねーよ。この時間でデート帰りやったら食ってるだろ、ふつう。

ーー空いてないんすか。じゃあ、飯食いに行きましょーよ。

ーーおかしいやろ。

ーーもー、空かしていきましょうよ。じゃ、コーヒーでも飲みましょう。寒いし。

ーーいや、明日早いから帰るわ。

ーーそんなこと言わずに。コーヒー飲みたい顔してますよ?

ーーしてねーわ。しょうがないな。

ーー行きましょ、行きましょ。先輩の彼女の話、聞いてあげますから。

ーーえ、聞いてくれる?  よしよし。

ーーあ、こっちっす。そういえば、先輩、『アイ・フィール・プリティ! 』見ました?

ーー見てないよ。

ーーまじっすか!  見たほうがいいすよ。先輩みたいな自意識こじらせ系男子は。

ーー誰がこじらせてんねん。

ーー違いました?  先輩はそれよりもあれっすね。劣等感ダダ漏れ系男子。

ーー漏れてねーから。

ーーまあ、そんな先輩にはぴったりの映画なんですって。

ーー……

ーーあらすじは知ってましたっけ?

ーーなんかあれやろ。ブサイクな女が頭打って自分のこと美人やと勘違いしたら全てがうまくいくようになったとかっていうやつやろ。

ーーそれです!  つまり、先輩も思いっきり頭打てばいいんすよ!  殴りましょうか?

ーーお前、殴られたいのか?

ーー大丈夫です。俺はうまくいってますから。

ーー俺も大丈夫や!

ーー……

ーーなんだよ?

ーーほんとに大丈夫ですか?

ーー大丈夫だよ!  で、そんだけの映画なんかよ?

ーーいやいや、それでまあ大体はあってるんですけど。

ーーただの自己啓発っぽい映画やんか。

ーーそれが、頭打ってからのポジティブっぷりがめっちゃ気持ちいいんですよ。もう突き抜けてて見てるこっちも楽しくなるんすよ。で、

ーーで、何?

ーー最後には実は主人公自身が狭い価値観に囚われていたことに気づいて、ほんとに大事なものが分かるっていうね。

ーーありがちなんじゃねーの。

ーーありがちなやつをちゃんと面白く作れてるんすよ。それがこの映画のいいところ。とにかく、気分が落ち込んでる時に見たら元気が出ること間違いなしの映画なんで、おすすめっす。

ーーじゃー、今度彼女と見てみるか。

ーーいいっすね。彼女さんと見て、彼女に言ってあげてください。「俺、見た目はこんなだけど、人は見た目じゃないからって」

ーー誰がブサイクだよ!

ーーあ、ここっす!  美味しいコーヒー出してくれるんすよ!