『咲くやこの花――川柳秀句を味わう――』時実新子

 時実新子氏の個人誌「川柳展望」から<前号十秀>として選出された句を時実氏の評とともに楽しめる。時実氏の評は鋭く、また文章の切れ味もよい。そういう意味では、これは時実氏の世界観を味わえる一冊でもある。彼女の、句に対する追体験能力の高さもさることながら、彼女の人生経験もまたその読みに深みを与えている。

 さて、その時実氏の世界観だが、その根底にあるのは健康な常識だという気がした。そこには常識が持つ強さと、また限界があると思った。この本を読んでいる時、僕はしばしばノスタルジーを覚えた。それは主に彼女の男女観からくるものだろう。時代を超えた男と女のあり方が存在する一方、それぞれの時代に特有の匂いをまとった男女の関係もまた存在する。彼女の評に立ち現れる男や女から、僕は実際には知らない昭和の香りを感じていた。(2013.04.01)