映画『悲しみは女だけに・・・』

 映画を見た、という気持になった。でも、舞台を見た、に近いのかもしれないし、文学を味わったというのに似ているかもしれない。ともあれ、オニールの『夜への長い旅路』が好きな僕の好みの映画だった。

 尾道で売春宿を営んでいるマサオ夫妻の家にアメリカから30年ぶりくらいにマサオの姉がやってくる。伯母に会うためマサオ夫妻の息子・娘たち(マサオは再婚で、妻と子らは血がつながっていない)も帰ってくる。マサオ一家の親と子の絆はすでにバラバラである。映画が進行するごとにそれがどんどん露わになっていく。ラスト、姉が一人残っている家に酔ったマサオが入ってきて、「みんな出て行け」と怒鳴る。マサオのそばに駆け寄ってきた姉を認めたマサオは口をつぐみ、二人が見つめ合っているところで終わる。

 この映画のどうしようもなさ、登場人物たちの抱えるどうしようもなさを僕は愛する。(2012.07.04)