『レムラインさんの超能力』ティルデ・ミヒェルス

 交通事故をきっかけに壁を通り抜けることができるようになったレムラインさん。そのレムラインさんのところに赤ちゃんがやってきて・・・。

 出だしを読み始めたときは、実直な帳簿係のレムラインさんが超能力を身につけたことで体験する出来事を楽しく描いたコメディだと思っていた。けれど、読み進めていくとコメディといえるほど笑いの要素は多くなく、ほのぼのとした(?)エピソードで進んでいく物語だった。

 登場人物の中にモーントシャイン――月の光という名の宿無しのさすらい者がいる。宿無しのさすらい者で月の光って名前、いいなあ。毎晩月の光に照らされて街をさまよっているのだろうか。月の光はまさにぴったりの名前だ。この人物がレムラインさんの超能力を解く知恵を与えてくれるのだけれど、レムラインさんが超能力を使えるようになったのも事故後に月の光に照らされて眠っていた時だったことを考えると面白い。

 この物語ではレムラインさんの息子(養子)のテオとその友達も重要な登場人物で、訳者あとがきで上田真而子さんが書いているように、お父さんのいばりっこをしたりする子どもたちの描写も楽しい。(2012.06.14)