長い大学生活の一時期、クリシュナムルティをよく読んだ。その頃も、今と同じく生き方に迷っていたのである。そして、何かーー救い?悟り?ーーを求めて、よく大学の図書館の棚の間をうろついていた。そんな自分の気持にぴったりきたのがクリシュナムルティだった。
俺は(これは長所でもあり弱点でもあるのだが)直感的な人間で、物事をあまり分析的に考えられない。クリシュナムルティも感覚的に合ったのであり、彼を論じる多くの人のように難しい理論をこね回すことはできない。ただ、彼の言葉が自分にはしっくりきたのである。同じ時期にラジニーシの著作も読んだが、クリシュナムルティのほうが自分の肌に馴染んだ。『生と覚醒のコメンタリー』にみられる彼の自然描写も自分には好ましかった。
結局、俺はクリシュナムルティの言う覚醒に至ることはなかった(それは、仏教でいうところの悟りと同じく、頭で理解して得られるものではない)。けれどあの頃、自分にとってクリシュナムルティは確かにヒーローだった。