一日の始まり

 「この前、断捨離の番組をしててさ、」喬は妻の理子に以前見たテレビ番組の話をしていた。室内には冬の陽射しが明るく差しており、二人はそれぞれに朝の仕事をしながら話をしていた。

「で、断捨離を始めたら、」

「ね、ちょっと待って」

唐突に、理子が話を止めた。

「それは母親の話、それとも娘の話?」

「母親に決まってるやろ」

「なんで? 今あんたは娘の話をしてたやん」

「それぐらい分かるやろ」

「あんたの話はいっつも主語がないねん。誰が、したんか分からへんようなる」

「ほな赤子に言うみたいに一から十まで言うたらなあかんのか」

「そんな話し方でようお客さんと仕事ができてるわ」

「なんでお前に仕事のことまで言われなならんねん。仕事もできへんくせに黙っとけ」

「ほな、わたしは何も言うたらあかんの? そら、あたしはあんたが言うみたいにしんどくなったら病気になるし、仕事もできひん」

「そや、お前が何もできへんくせにつべこべ言わんでええねん」

「わたしには何も言うな、言うねんな」

「そうや。黙っとけ」

「じゃ、わたしには何の価値もないの」

「なんもそんなこと言うとらん」

断捨離の話はすっかりどこかに行ってしまっていた。沈黙が二人を支配した。

「で、さっきの話の続きは?」

理子が先に口を開いた。

「もうええわ。めんどくさい」