Aおはようございます。斎藤さん、今日もゴミ出しですか?
Bそうなんや。すっかりわしの仕事にされてしもてなあ。そういうお宅も?
Aそうですよ。ゴミ捨て場でのカミさんたちの井戸端会議なんていうのも近頃じゃすっかりなくなりましたな。今や定年した男どもの寄り合い場ですな。
Bそうやな。それはそうと角のヤー子はまた男に逃げられたんやって? あいつは年がら年中男の尻追っかけとる。あれは病気や。
Aまあまあ。まだまだ若いんやからええやないですか。わしらの時代よりも自由な世の中ですからな。
Bそれより、わしの向かいん家の正雄や。ありゃいよいよギャンブル中毒や。働きもせず朝っぱらからパチンコや言うて今日も行きよったわ。ええ歳して元気な体やのに働きもせんと。あいつは病気や。
Aそうですな。近頃ではギャンブル依存症いうて問題になってますな。あれはちゃんとしたところで見てもらわんといかんらしいなあ。
Bそういえば、横さん、うちの隣のカズ君は見たことあるか?
Aあー、そう言われたら見てませんなあ。もう随分と見てない気がするね。今は大学生やったか? カズ君もいよいよ一人暮らしでも始めはったんかいな?
B何言うてんねん。カズももう25やで。あれはもう5年ほどウチから一歩も出てまへんのや。ひきこもり言うやつでっせ。8050問題やいうて新聞でも取り上げられてるやろ。あれは昔から優しい奴やったけど、えらい引っ込み思案で気が弱かったからな。それで病気になってしもたんや。
Aそうですか。ひきこもりですか。うちらの近所だけでも色々ありますなあ。
Bさっき登志子の婆さんと会うたけど、あのババアもいよいよ頑固になりやがって。人の顔見てニヤリと笑ったかと思うたらぶつぶつぶつぶつ文句ばっかりお経みたいに唱えやがって。
Aあらあら登志子さんと何かあったんですか?
B何もあるもんか。あのババアが勝手にわしの文句を言うとるだけや。わしの声がうるさくて夜も寝られへんぬかしやがる。あんたん家とはずっと離れとるやろ、わしの声が聞こえるわけないやないか言うても聞く耳持たん。ありゃ病気じゃ。そういや、あんたの奥さんはまだあの若いアイドルに熱上げてんのかい?
Aもうね、それが生きがいですよ。この間もライブや言うて横浜まで行っとりましたわ。
Bええ歳して年甲斐もなく若い男追っかけて、もう病気やな。
Aちょっと斎藤さん、わしも我慢してあんたの話聞いてましたけど、女房の悪口言われたらたまりませんな。あんた、人のことなんでも病気や言うてちょっと見識が狭いんちゃいますか? 男の尻追っかけることの何が悪いんです? ギャンブルやひきこもりだって人それぞれにこちらには分からない理由があるんちゃいますか? うちの女房だって、アイドル追っかけるのに年齢が関係あるんですか? 好きなことがあってよろしいでしょ。あんたこそ好きなことでも見つけはったらどないですか? そしたら人のことばっかり気にすることもなくなるんやないですか? 登志子さんがあんたの声がうるさい言うのも分かる気がしますわ。会うたびにこう人の悪口ばっかり聞かされたんじゃたまりませんからな。そういうあんたは一体何様のつもりなんですか?
Bわしか? わしゃ病気や。