京都その5

    憂鬱。

    まさにそれだった。俺はその時ひどく憂鬱だった。俺は一人、カラオケで歌っていた。それが間違っていたのだ。

    昨日、俺は朝から寺をまわって歩いた。よく晴れた日で歩いているだけでも気持ちの良い日だった。俺はそれぞれの建造物を眺め、その空間を感じ、仏に手を合わせさえした。そうやって過ごしているうちは俺の心は落ち着いていた。たとえ心にいろいろのわだかまりはあったにせよ。 

    ところが、暇つぶしに入ったカラオケによって、そんな俺の心の平安はあっという間に崩れ去ってしまった。 俺の心には不安や後悔や自責の念が雪崩れ込んできた。俺は歌を歌ってそんな自分の気持を紛らわせようとした。だが、それは虚しい試みに終わった。俺はひたすら憂鬱に歌い続けた。