サンタクロースの贈り物

 もうすぐクリスマスだ。
 ぼくはもういい大人だし、こんなことを書くとかなりイタイが、いまだにぼくの心の中にはサンタクロースがいる。
 30半ばになって恋人もいないとなると、クリスマスだといって、子どもの頃のように心がうきうきすることはない。それでもバレンタインや近年盛り上がっているハロウィンとは違う高揚感がクリスマスにはある。
 クリスマス――この言葉を聞いて幸せを感じる人も、また、そうでない人もいるだろう。ぼくの場合、幸せを感じる。そして、その幸せにサンタクロースの存在は欠かせない。
 サンタクロースという、今ではどう考えても信じられそうもないおとぎ話のような存在を、ぼくは中学生くらいまで信じていた。今となっては笑い話だが、そんな歳になるまで信じていたなんて、よっぽど幸福(おバカ)な子どもだったんだろう。
 その分、サンタクロースの正体を知った時の衝撃は大きかった。信じていた自分が馬鹿らしくなって、最初からそんなこと信じさせなければよかったのに、と親を恨めしくさえ思った。けれど、もしサンタクロースがいなければ、クリスマスもまたそのほかのイベントと同じようなものでしかなかっただろう。
 サンタクロースの存在によって、クリスマスは特別な魅力を放っている。それは子どもの夢であり、日常の中に空想の世界が違和感なく入り込む特別な機会なのだ。サンタクロースの贈り物は、実は物質的なものであるよりも精神的なものだったのである。見えない存在を信じることで、たしかにぼくの心は育てられたのだ。
 今でも小さな子どもたちの多くはまだサンタクロースを信じている。けれど、この情報社会。サンタクロースの居場所もどんどん小さくなっていくだろう。ぼく――今のところ恋人もなく、子どもと暮らす予定もない――とて、将来もし子どもができたら、その子にサンタクロースを信じてもらうかどうかは分からない。それでも、ぼくの心にはいつまでもサンタクロースは生き続け、つめたい季節の中にひとかけらの夢と温もりを与えてくれるだろう。


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